カワサキZ650シリーズは、1976年に誕生しました。搭載されたのは、空冷4気筒DOHCエンジンで、あの独特の
カワサキ4気筒サウンドを持つ、丁度良いサイズのオートバイでした。
全体のデザインは、その後の4気筒車のスタンダードとなるもので、70年代当時の「オートバイ」のイメージそのものと云う形をしています。
このコンセプトは、1990年代にリバイバルした「ゼファー(Zepher)」シリーズにも通じる、いわゆるネイキッドバイクデザインの代名詞的なものでした。
テールは、丸みを帯びたZ1、Z2などのRSシリーズや、逆にスクエアなFXシリーズとも違う、非常に素直でシャープなラインを描いています。
後姿も、あまりにもスタンダードなデザインで、素っ気無ささえ感じますが、それはこのZ650が時代の先駆けであった証でもあります。
650ccと云うと、珍しい排気量のように思いましたが、日本で中型バイクと云えば、免許証のラインの影響で400ccですが、欧米では550ccや600cc、650ccと云ったクラスがミドルサイズの主流となっているようです。
モリワキレーシング製のストレート風集合マフラーと小型化された前後ウインカーが、ライトチューンの雰囲気を盛り上げてくれるこの個体ですが、これらは1970年代当時、憧れのチューンだったようです。
わたしは、大型二輪免許を持っていないので、残念ながら試乗は出来ませんでしたが、とりまわし自体は400ccクラスと殆ど違和感が無く、400ccよりも少し余裕のあるエンジンが載っているという点で、車体の大きさといい、650ccと云う排気量といい、日本人にとても合った、丁度いい大きさのように思いました。
現代の日本人の平均身長であるわたしの目線から見たZ650。
わたしが大型二輪免許を取って、乗るならこのサイズかな?と思えた大きすぎず、小さすぎないホントにいいサイズでした。
この個体は、長年実用に供された程よいヤレ感のある機関や外装類と、最近磨きを掛けたと言うポリッシュされためっきパーツ類が絶妙で、オーナーのこのバイクとの距離感と愛着が感じられるベストコンディションでした。
特に、既に35年を経た車体とは思えないめっき部品の輝きは、当時の日本のものづくりの良さを感じさせる質の高さでした。
後に、川崎のお家芸となった「空冷4気筒DOHC2バルブ」エンジンは、64psを発生し、乾燥重量で211kgの車体を動かします。
名前はZ650ですが、正確な排気量は652ccだそうです。
右の写真のキックペダルに注目。Z650は、セルフスターターも装備されていますが、この4気筒モデルにも、ちゃんとキックスターターが付いていました。
1980年代以降のバイクしかよく知らないわたしは、あまりにも珍しく思ったので、最初に見せてもらった時に、これでエンジンを掛けてもらったことがあります。
こちらは、Z650のキャブレター。ミクニ製のVM24SSと云うそうです。
直付けのチョークレバーや、スプリングバンドで固定するエアクリーナーボックスのインシュレーターに時代を感じます。
オートバイのメカがシンプルだった時代。現在でも、別にこれでよかったのでは?と思う21世紀の今日このごろです。
前後のブレーキ周りを見ます。
Z650は、まだシングルポッドキャリパーと、ノンベンチレーテッドの組み合わせがシングルで装着される時代のバイクです。
そして、後ろはドラム式ですが、カムロッドが妙にカッコいい輝きを放っているのが印象的でした。
さて、こちらは、キーで簡単にシートが開き、バッテリーのメンテナンスや車載工具が取り出せる、親切設計のダブルシート。
1980年代のレーサーレプリカブームの頃には、一時期絶滅寸前になった便利機構です。
特にカワサキのモデルは片側に開いて、固定できるところまで親切にこだわった造りをしてくれています。
12Vのバッテリーと車載工具、そして書類入れでしょうか。薄型のケースが創り入れられています。
Z650の運転席の眺め。とても視認性の良さそうなスピードメーターとタコメーター。レタリングが70年代の雰囲気満点です。ワーニングランプ類も必要にして十分の時代。空冷エンジンなので水温計もありません。
レヴカウンターは、9,000rpmからがレッドゾーンになっていました。
また、トップブリッジのステム部分の横ネジがとてもユニークだと思いました。
フロントブレーキのマスターシリンダーカップもとても頑丈そうな創りに見えました。
こちらは、この個体に装着されていた、古きよき70年代カワサキサウンドを盛り上げてくれる、モリワキ集合管。
この時代のネイキッドには、やはり抜群に似合います。そして野太い快音も絶妙でした。
この個体は、リヤサスペンションも社外品に換装されていました。
タイヤも当時の定番、「ダンロップ TT100」。70'sチューン、完璧です。
【こぼれ話】
この個体は、このサイトで一番多くの車種を取材させていただいている友人の愛車を取材させていただきました。
いつもありがとうございます。
じつは、わたしが当サイトの前身"Beautiful old cars Nostalgia"をやっていた時代から既にお持ちだったのですが、あまりにも友人の日常に溶け込みすぎていて、ちょっと古い旧車としての
ザッパーに、今まで気が付かなかったと云うのが正直なところでした。
新車から35年を過ぎた今も、通勤や買い物の足に普通に使っておられます。経年を共にしてきたガソリンタンクやサイドカバーは、日常で使い込んだ時にしか出ない独特のヤレ感があります。
わたしは、それまで一台の愛車をそれほど長く乗った経験が無かったので、この方と知り合った頃、このヤレ感がたまらなくカッコいいと思いました。
反面、ここぞと云う部分には、しっかりと手が入れられていて、今では、わたしの車やバイクの乗り方に対する美学の原点になっています。
かつては、冬の最北の地にも到達されたというこの
ザッパー。これからも、日常の中で普通に乗り続けて欲しいと願う一台です。